倭姫命-やまとひめのみこと
天照大御神のご神体である八咫鏡-やたのかがみを携えて各地を巡った、倭姫命-やまとひめのみこと という神様がいました。倭姫命は第 11代垂仁天皇の第 4皇女です。
神武天皇の世から八咫鏡は皇居でお祀りされてきましたが、第 10代崇神天皇の御代で疫病が流行りました。これが八咫鏡の祟りであると考え、皇居の外に神籬を立てて八咫鏡をお祀りしました。
その後、垂仁天皇が永遠に安定して天照大御神をお祀りできるふさわしい場所を探そうとお決めになり、その役目を倭姫命に託しました。
下の地図が元伊勢として知られる、倭姫命が天照大御神の鎮座地を求め近江・美濃などをご巡幸し一時的に八咫鏡を祀った場所です
そして、倭姫命が伊勢の国に入った時に天照大御神のご神託がありました。
「この神風の伊勢の国は、遠く常世から波が幾重にもよせては帰る国である。都から離れた傍国ではなるが、美しい国である。この国にいようと思う」
と言われ、倭姫命は天照大御神の教えのままに五十鈴川の川上に宮をお立てになりました。
と、このように日本書紀には書かれています。
鏡岩
内宮から五十鈴川の上流へ直線距離にして 2kmほど登っていくと、川のほとりに巨大な岩を見ることができます。
昭和 5年( 1930年)に日本旅行協会から出版された「伊勢参宮案内」に画像と共に鏡岩のことが書かれていました。
鏡岩
この辺は両岸が鬱蒼たる木立で、川の中には岩が多くて、澄み切った水がその間を流れてゆく。鏡岩は川に沿った木の間にあって、今は苔むしてしまったが、以前は良く物を映した。高さ二丈余り、横五丈の大岩。(注釈: 高さ約 6m、横幅約 15m )
また、寛政 9年( 1797年)5月に出版された「伊勢参宮名所図会」でも鏡岩が鏡石として描かれていることが確認できました。
見開きの左ページを拡大した画像。
鏡岩の上にお社が2社描かれています。右が新川社で左が鏡石社と描かれてます。その左下の地上に立っている人は、まるで鏡に映っているように描写されています。
上の絵と同じ方向からの鏡岩の画像です。
身長 170cmの人が立つと、鏡岩のその大きさがわかります。しかし、鏡のように輝いてはいません…
つまり鏡岩という名称は、太陽の光が水面に反射して岩肌を輝かせまるで鏡のような岩だから鏡岩と名付けられた…のでしょうか。
鏡岩の頂上右側からお社の正面に入り込めるように通り道があります。その通り道からお社を撮影しました。
220年以上前に出版された本の通りにお社がありますが、 明治の神社改革で旧内宮所管社や近隣の神社が合祀され鏡岩社は宇治神社と合祀されました。
鏡石社と並んで祀られていた新川社は伊勢神宮内宮前の近くの津長神社に同座していますが鏡岩には末社として残っているようです。
新川社は新川比売命-にいかわひめのみこと で、大水上大明神の娘で水の神として伝えられています。倭姫命は五十鈴川の川上へ船を漕ぎ、津長原の船着き場に降り立ちました。津長原の地名が津長神社となりました。
倭姫命がここでもまた出てきました。
鏡岩とは、いったい何なのか?
鏡岩は倭姫命が八咫鏡を置いた岩です。鏡を置いた岩なので『鏡岩』なのです。
倭姫命の直感で、ここだ!この場所だ!と思ったのか、天照大御神のお告げなのかわかりませんが、倭姫命は鏡岩の上に八咫鏡を置いたのです。
本来であれば鏡岩を磐座として天照大御神をお祀りするのでしょうが、地形的に山を削り取り整地でもしない限り社殿を建築することは難しい場所です。
それゆえ、比較的穏やかな地形の五十鈴川の下流でお祀りすることにしたのでしょう。
鏡岩が八咫鏡をお祀りした場所とは言えないが由緒ある岩だと語り継がれてきたため、古い参宮案内や参宮名所でも紹介されていたのです。地元の 60代の男性は、小さい頃はこのあたりは遠足のコースだったと言ってます。
しかし、皇學館大学に通う学生や地元の若い方に聞いても、鏡岩のことは知りませんでした。
戦後、GHQによる占領政策の基、神道指令を発令し天皇陛下は伊勢神宮の祭主をしてはならないと決めました。また、政教分離を徹底するために神道や国体といった言葉がついている本はすべて焼き尽くしました。
長きに亘り人々の間で語り継がれてきたであろう鏡岩ですが、戦後教育によって人々の記憶から消し去られてしまったかのようです。
先に紹介した「伊勢参宮案内」や「伊勢参宮名所図会」はGHQの焚書を奇跡的に免れた本かもしれませんね。
『伊勢神宮参拝がもっと面白くなるブログ』のトップページ画像とドメインにも使わせていただいている倭姫命。伊勢神宮創建の秘密に迫る神様で、鏡岩の紹介をするには間違いなく外せない神様です。
※鏡岩周辺の林に立入るには伊勢神宮の許可が必要です。また、害獣駆除の猟が行こなわれていたり、時期によってはハチの襲撃もある場所です。くれぐれもご留意ください。